こんにちは、あきほ(@arkeninger)です。

今回は最近読んで面白かった本の紹介です。

物語の核心的な筋には触れず、ネタバレにならないよう注意しながらお話ししようと思います。

 

 

 

『大進化どうぶつデスゲーム』

 

著者: 草野原々

タイトル: 大進化どうぶつデスゲーム

 

著者名は”くさのげんげん”と読むようです。

タイトルは語呂の良さも相まって少々ポップな印象を受けますが、なんといっても『デスゲーム』という厳つい単語により強い印象を受けます。表紙に多数の登場人物が描かれていることもあり、いわゆるバトルロワイヤル系のサバイバルゲーム小説かと思ってしまうかもしれませんが、本作はファンタジー寄りのそういった作品とは少し違い、ジャンルで言えばSFとなります。

 

このSFのテーマは”進化”です。進化と言ったらサルがヒトに進化したという話の、その進化です。
遥か昔、僕らヒトの祖先であるサルは進化の過程で知能を獲得し、道具や炎の扱いを身に着け、ついにはヒトへと進化したわけですね。

知能を獲得するという進化のレースで他の動物たちに打ち勝ち、地上の覇権を手にしたヒトという種は地球上の動物たちの頂点に君臨します。

もしこの時、知能獲得に至ったのが、いずれヒトへと進化するサルではなく、他の動物だったらどうだったでしょうか。

本作では過去のある時点でネコが知能を獲得し、サルに打ち勝ち地球の覇者となります。結果、サルはヒトへと進化できず歴史が変わってしまいます。

 

本作はそんな進化史上のイレギュラーを解消してサルがヒトへと進化する正しい歴史を守るため、主人公たちがタイムスリップしてネコと戦います。

ネコとヒト、動物種どうしの進化をかけたデスゲームというわけです。

 

キャラクターが結構多く、冒頭から矢継ぎ早に登場するので、はじめ誰が誰だかという戸惑いもあるのですが、キャラクターたちは皆個性的なので読んでいるうちに馴れてきます。また、登場人物たちの中でも特に重要なのは数人なので、いざ読んでみると問題なく読めます。

少々癖のある、事実を淡々と述べていくような文体で紡がれるストーリーは、文学作品としての感情的な抑揚などは少々汲み取りにくいきらいもあるのですが、本作は何と言ってもSFです。SFとしての面白さは損なっていないばかりか、むしろ科学的な描写の段に入ると俄然活き活きとして感じられます。

ネタバレになってしまうのでどことは言えませんが、あのシーンのミクロの動態の描き方は実に見事で、文体の力強さともマッチして著者渾身の一撃だと思わせるものがあります。

 

古生物学や進化論だけでなく量子論やタイムパラドクス、物理化学と広い分野に触れつつ、世界の成り立ちといったSFにおける伝統的な問いに対して独自の世界観による回答を与えているのも本作の面白いところ。

読み応え抜群で、とても楽しめた一冊でした。

 

 

 

『大絶滅恐竜タイムウォーズ』

 

タイトル: 大絶滅恐竜タイムウォーズ

 

こちらは上の『大進化どうぶつデスゲーム』の続編です。

この作品については何を書いてもネタバレになってしまいそうなので、慎重に、少し抽象的に紹介しようと思います。

 

『草野原々は、至高のSFであることに殉じた』『前作読者の期待を大きく裏切る超衝撃的な問題作』というけたたましくも華々しい煽り文句がついている本作ですが、これらは全く嘘偽りなく本当のことだと思い知らされる一冊です。

冒頭では前作読者の期待にしっかりと応えるかのように緻密な生物進化の考察に裏付けられた多彩な鳥たちが登場します。前作でヒトを脅かすのはネコでしたが、今作では鳥類なんです。

 

しかし物語はそこから大きく舵を切って、いきなり呆気にとられるような展開が押し寄せます。そこからはもう嵐のよう。

目まぐるしく二転三転するストーリーに読者は完全に置いて行かれそうになります。いや、これはもうストーリー……物語と言っていいのかすら分かりません。読者は努力してこの話を読まなければならないでしょう。努力するだけの価値はあるのですが、それでも大変なことには大変です。

「そんなのアリ!?」は言い飽きたというほど次々と叩きつけられる衝撃。斬新という言葉では足りない仕掛けが施されており「それは禁じ手だろう!」と言いたくなるような場面も。それすら「やられた!」と舌を巻くような痛快さがあります。

 

賛否両論は当たり前なんですが、その『否』の部分にもちゃんと意味があってのことなので、苦痛でも最後まで読んでみてほしいと思います。

 

読後感はもう呆然の二文字に尽きます。

あれだけ支離滅裂に広げた物語が、円がぴたりと閉じるように完結し、読者は「なんだかよく分からないけれど、とにかく凄いものを読んだ……」という感想を抱きます。

SFとしては間違いなく最高級、大衆文学としてはこちらも間違いなく最底辺の一作です。

油断して読むと完全にハードSFなので不意打ちを食らいますが、この呆然はぜひ皆さんにも味わってみてほしいと思います。完全に本の価格以上の価値があります。

 

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