電気自動車(EV)版のメルセデス・ベンツ Cクラスが発表されました。
その名も「The electric C-Class」です。日本での呼び方がどうなるかはまだ分かりませんが、ワールドプレミア時の呼称はこの通り。
さて、XなどSNS上では、そのデザインに賛否両論(みなさんもご存知の通り、この言葉を使うときは「否」が圧倒的に多いという意味です)ですが、内燃機関のCクラス(W206)オーナーから見てEV版はどう映るのか、僕なりに解説してみたいと思います。

(本記事内の画像は、特段の但し書きがない限り、上記GQJAPANサイトからの引用です)
従来のデザインからの方向転換

一言で表現するなら、先に発表されているEV版GLCの相似形のようなセダンです。
特にフロントとリアはほとんど同じ意匠をセダンボディ用に調整して実装したようなものとなっています。
個人的にはそのことがどうにも微妙に感じます。
SUV(GLC)のデザイン転用への違和感
セダンにはセダンの、SUVにはSUVの、それぞれに合うデザインがあります。例外ももちろんあるのであくまで傾向や原則としての話ですが、例えばセダンなら背が低く全体的に流麗なボディ形状なので、デザインの各要素もそれに合わせて切れ長でハンサムに仕上げるのが似合います。一方でSUVはボディに厚みがある分だけ天地方向に間延びしやすく、そこを埋めるようにデザインの各要素を安定感を強調するように配置することで、SUVならではの力強さを演出できます。
今回のCクラス・GLCのデザインは、どちらかというとGLC用のSUVに似合うデザインを、セダンであるCクラスに転用したような印象があります。
セダンの優先順位がSUVよりも下になっている。セダン好き・現Cクラスオーナーとしては、その点はやや残念です。
実験的なグリルとブランド表現

ピクセルドットの発光グリルは、明確に新しい方向性を示しつつも、実験的に見えます。EVとしては必ずしも必要でないグリルという要素を、ブランド表現のツールとして活用しようという話はわかるのですが、これがその完成系という印象は受けません。むしろまだ模索中で、第一弾という感じがします。
そもそもメルセデスのブランド表現は、四角いドットが並ぶものでいいのか? というのも気になるところです。
今は上下のクラスも含め、このグリル意匠に統一していくフェーズなわけですが、さらに次のフェーズでは今よりも洗練されるでしょう。個人的にはそこが楽しみです。
意外にもコンサバティブなフォルムがメルセデス流

他の車種にも言えることですが、近年のメルセデスのデザインはひとつ大きな特徴があります。
それは、ライトやグリルなどデザイン上のひとつひとつの要素は奇抜とも言える攻めた形状をしているものの、それら全体のまとめ方やクルマそのもののフォルムは決して奇抜ではなく、むしろ安心感のある保守的なものであることです。
(この原則からはずれたEQE・EQSは販売不振に悩んでいるので、EV版Cクラスではしっかりここを押さえてきましたね)
今回のEV版Cクラスについても、ひとつひとつの要素ではなく全体のフォルムを見てみると、意外な部分がほとんどないと思います。そのこと自体が意外に感じるほど要素が目立つのでネット世論ではあまり注目されませんが、ただ奇抜でぎょっとするだけではないデザイン上の塩梅の上手さがここにあります。
EVならではの形状、葛藤と工夫
さて、そんな中にあっても、やはり従来からの方針転換は感じさせます。
これまでの内燃機関のCクラスは、内燃機関に由来する後輪駆動ならではの、長いボンネットとプレミアムレングス、それに伴うスポーティなスタンスを重視してデザインされていました。
また、メルセデスのセダンに共通の「跳ね上がらない」半月型のサイドウィンドウ後端処理と、それによる太いCピラーも特徴のひとつでした。

失われたプレミアムレングスとセダンらしさの維持
しかし今回のEV版Cクラスは、まずプレミアムレングスが内燃機関版よりも短いです。
内燃機関がそこに存在しているゆえのカタチなので、内燃機関を積まないEVでプレミアムレングスを長くする必要はないのでしょうね。しかしプレミアムレングスという名前の通り、それが高級車の証という側面もあり、ここは残念に思う人も多そうです。
リアもセダンというよりは、どちらかというとクーペのようなデザインです。リアウィンドウの傾斜がより緩やかになり、空力重視が見て取れます。これに伴い6ライトウィンドウ化されていますね。
ここは他のブランドの車種もみんなそうなってきていますね。むしろもっと露骨にやっているブランドが多いです(トヨタのクラウンとかがそうです)。

ボディ最後端までルーフとリアウィンドウが続くファストバック的なフォルムが多い中で、このEV版Cクラスにはしっかりトランクがありますね。セダンらしさを感じさせるので、セダン好きとしては好印象です。

横から見ると、リアのフォルムはEQE・EQSからの流れを感じさせます。方針転換しているとはいえ、やはり受け継いでいるものはありますね。

車高を隠すメルセデスの技法
さて、どのブランドも苦心しているところですが、EVセダンを作るにあたっては、バッテリーを床下に敷き詰める都合上、どうしても車高が高くなってしまうという課題があります。
さらに前述のような短いプレミアムレングス、長いルーフなどもあいまって、EVセダンはどれもボテっとしがち。デザイナーはさぞ苦しいことでしょう。
それを誤魔化すのが、ボディ下部のブラックアウト処理です。これによってボディの厚みを目立ちにくくするのですね。
今回のEV版Cクラスは、そのデザインが比較的上手く、自然に見えます。

これが下手なブランドが結構あるんですよ……例えばアウディは中学生のスニーカーみたいに厚ぼったい印象で、無理やりセダン/スポーツバック風に見せようとしているのが見て取れてしまいます。
SUVに乗っている人からしたらスタイリッシュに見えるのでしょうが、セダンに乗っている人からしたらこれでセダンのつもりかと言いたくなってしまいます。

その点、メルセデスは上手です。ちゃんとセダン/クーペの枠の中に入っているものとして見えます。
とはいえ、やはり内燃機関版のCクラスと比べてしまうと、フォルムそのものがスタイリッシュなのは内燃機関の方ですね。

ここは好みの問題もあると思うので、どこまでそのスタイリッシュさを求めるかで選択が変わりそうです。
大胆なサイズ拡大

さて、EV版Cクラスは内燃機関版と比べてかなり大柄になりました。日本仕様の正式な数値はまだ公表されていませんが、ボディサイズは4.9m弱×1.9m弱。これはほぼ内燃機関のEクラスに相当します。ホイールベースも3m程度と、従来より10cm近く拡大しています。
ここはEVの良さが出ますね。プレミアムレングスが短いので写真ではわかりにくいのですが、EVは構造上ホイールベースを長く取りやすいです。乗り心地は間違いなく大幅に向上しているはずです。まさにEクラス並み……どころかそれ以上のはず。内燃機関版Cクラスのオーナーとしては、羨ましいポイントです。
革新的と保守的の狭間で
今回のEV版Cクラスについては、先にも書いた通り、ネット世論では否定的に捉える向きが目立ちます。確かにかなりアクのある、けばけばしいと言ってもいいようなデザイン要素が並べられており、一目見てクセが強すぎると感じます。そこは否定できませんね。

ただし、一目見て「特別で」「すごい」「ただ者ではない」クルマだというのは強く感じさせます。
メルセデスをはじめ高級ブランドのオーナーというのはそういうのが好きですし、それが一部の顧客に激烈に刺さる可能性は十分にありますね。
あえて見方を変えれば、メルセデス・ベンツともあろうブランドが、例えばトヨタよりも「普通の車」でいるわけにはいきませんものね。
そして、細かな要素の奇抜さとは対照的に、保守的な全体。思ったよりもセダンらしさが残っているなという印象です。
とはいえ、やはり会心の出来という風には見えませんね。
執拗なフロント、ミスマッチなリア、すっきりとしたサイド……これらの統一感や調和に欠ける第一印象を抱きます。やはり過渡期のデザインですね。
今後のマイナーチェンジや、さらにもう一世代後のフルモデルチェンジ後の洗練が楽しみになります。その時こそ買い時、という気もします。
精緻でゴージャスな内装は正統進化

内装はGLC同様、かなり良いです。
正直、エクステリアについては上で厳しい意見も書きましたが、インテリアについては個人的にかなり好印象です。
エクステリアと違ってインテリアは、完全に新しいモチーフというよりは、これまで内燃機関のCクラスやAクラス、Sクラスなどで取り組んできたデザインの延長線上です。
一見大きなディスプレイが目を引きますが、全体の構成やまとめ方を見ると、従来のものの妥当な発展形であることがわかります。
内燃機関のCクラスとGLCが(寸法の違いを除けば)全く同じと言って良い内装であるように、EVのCクラスとGLCも同じ内装になっています。
個人的にトリムはGLCのティザー画像のようなウッドトリムの方が好きです。日本仕様でも選べると良いですね。

大きな画面のインパクトが強いので操作しにくいのではと心配する人もいるようですが、現行の内燃機関版Cクラスに乗っている身からすると、全然そんなことはありません。
特にすぐに操作する必要がある機能はボタンが残されていますし、それらは手の届きやすい近くに配置されています。どことは言いませんがどこかのブランドのように、ハザードスイッチが天井についているなんてこともありません。
この内装は、現行オーナーとしてはかなり羨ましい部分です。
メルセデスらしい精緻でゴージャスな世界観がたっぷりと表現されています。

ショールームに実車が配備されたら、ぜひ実際に乗り込んでみたいですね。
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