新型CX-5に見る、マツダ魂動デザインの変遷

自動車/クルマ

今でこそマツダ車から他社の車に乗り換えてしまいましたが、つい数か月前までは10年ほどマツダ車に乗っていました。

特にその格好いいデザインに魅力を感じ、それが決め手となってマツダ車を選んでいたので、マツダのデザインにはずっと注目してきました。

マツダは「魂動デザイン」という言葉で「生命感ある動きを形で表現する」デザインテーマを持っています。

実際、マツダの車は一目見て格好いいと思える見た目をしていて、とても評価が高いですよね。

そんな魂動デザインですが、もう「魂動デザイン」という言葉を使い始めて十数年が経ちます。 その中で、同じ「魂動」でも時期ごとに徐々に傾向が移り変わっています。今回はそれを振り返ってみましょう。

動物モチーフの生命感重視から始まった魂動

マツダが魂動デザインという言葉を使い始めた当初、モチーフとしていたのは、動物のいきいきとした動きでした。具体的には「ネコ科の大型肉食獣」をモチーフとしていると公表されていました。

 「デミオ」(後の「MAZDA 2」)は、素早いジャンプで獲物に飛び掛かる瞬間 

画像はヤマネコ
画像はデミオ

「アクセラ」(後の「MAZDA 3」)は、後ろ足に溜めた力を爆発させてスタートダッシュを切った瞬間

画像はチーター
画像はアクセラ

 「アテンザ」(後の「MAZDA 6」)は、姿勢を低くしてトップスピードで疾走する姿

走るチーター
画像はチーター
アテンザのサイドビュー斜め
画像はアテンザ

が、それぞれ表現されています。

また、それに加えて、「後輪駆動車のように長いボンネットと比較的前出しされたタイヤ」「比較的少ないキャラクターライン」なども欠かせない要素でした。

当時はキャラクターラインと呼ばれる、車体側面のプレスラインでクルマのデザイン上の個性を表現する手法が今よりもかなり多用されていて、車種によっては線がかなり多いものもあり、ごちゃごちゃした印象や、いわゆる「ガンダム感」に繋がっていました。

画像はホンダ フィット

そんな中であえてキャラクターラインを減らしたマツダ車はもともとのプロポーションの良さが強調され、斬新に見えました。

初代CX-5や僕が買ったアテンザはこの頃の魂動デザインです。

初代CX-5

新しい表現を得た魂動

さて、そんな鼓動デザインの文法を守りつつ、2代目CX-5からは新たな表現を獲得していきます。マツダはこれをデザインの「深化」と呼んでいます。

2代目CX-5

キャラクターラインをさらに減らし、線ではなく面の複雑な抑揚構成を用いて路面などの映り込み(リフレクション)を見せる表現は、そのひとつです。「光のうつろい」「面で魅せる」などといった文句も使うようになりました。

この魂動デザインの新しい方向性は独特の「ハリ」感を出すことにも寄与しました。緊張感を演出でき、当時のマツダはこれを「和の精神」「引き算の美学」という言葉で説明しています。

今では特にトヨタなど他のメーカーもキャラクターラインを減らし「面で魅せる」デザインを使うようになりましたよね。

さらにはボディカラーについても、それまでパール系の色が多かったのですが、マツダがソウルレッドプレミアムメタリックで成功したことを受け、このくらいの時期からメタリックレッドやメタリックブルーなどをラインアップするメーカーが増えました。

マツダは他社が追随する、自動車界のファッションリーダーでもあるというわけです。

画像はトヨタ クラウンスポーツ

この深化は、MAZDA 3で完成に至りました(と、僕は解釈しています)。

MAZDA 3

キャラクターラインはもはや目につくところに存在せず、徹底的に美しい面構成と、不必要な装飾が一切ないシンプルな要素の配置。それらが完璧に調和するバランスの良さ。ひとつひとつのカタチすべてに視覚効果や機能性・意図が説明できます。「なんとなくこういう形になっている」という箇所がひとつもありません。

トレンドを取り込んでさらに変化する魂動

日本には導入されていませんが、近年のマツダは中国市場において、中国メーカーのOEM車としてEZ-6 / MAZDA 6eを、オリジナル車種としてEZ-60を展開しています。

EZ-6 / MAZDA 6e

これらのデザインには、これまでのマツダにはない表現が見られます。 魂動デザイン導入当初の「動物らしい生命感」は無くなってこそいないものの控えめになり、代わりにシャープで直線的な意匠が目立ちます。

それまでよりもやや無機質な、メカっぽさというか、工業製品らしさを強く感じるようになりました。

リアの横一文字ライトやヘッドライトとポジションランプが分かれた構成、エンブレムに代わって「MAZDA」の文字組みなど、流行りのデザイン処理も取り入れています。

「引き算」のデザインというよりは、流行りの要素を各所にちりばめた、ファッショナブルなものを魂動デザインの文脈に置くとこうなりますよ、と言っているようです。

こうした挑戦的な取り組みは中国市場向けの車種のみかと思いきや、そうでもないようです。 先日発表された新型CX-5は、明らかにこうした流れを汲んでいます。特にフロントフェイスはEZ-6からの展開ですね。先進感を感じさせるようなものになっています。

3代目CX-5

他にも、例えば

  • ホイールアーチの樹脂パーツ部分が円形ではなく、上部を平らにした台形にしている
  • ボディサイド下部の樹脂パーツを端から端までシンプルに繋げるのではなく、斜めに切り込んだラインで処理している

この辺りはこれまでのマツダには見られなかった流行りの意匠です。どちらもプロポーションやスタンスの良さを強調するというよりは、細部の技巧的な見せ方によってSUVとしての力強さを演出する処理で、端正な美しさはその分スポイルされています。個人的にはトヨタのRAV4っぽいなあと感じます。

好みによって受け入れが好意的になるか、否定的になるかは別れますが、魂動デザインも当初とはだいぶ変わってきたなあと思わせますよね。

マツダのデザインチームの中の人たちも入れ替わっているのでしょうし、いつまでも同じものを作っているわけにもいきませんからね。

みなさんは新型CX-5のデザインについて、どう感じましたか?

今後の魂動デザインの方向性を示したEZ-6 / MAZDA 6eやEZ-60に対して、それを中国だけでなく日本も含めたグローバルに展開し、マツダ全体のデザインにしていくことを宣言するような新型CX-5。

この方向性でもっと多くの車種を開発し、試行錯誤を重ねることで、今のマツダらしい先進感・力強さ・美しさのバランスを突き詰めていくのでしょう。それが今から楽しみですね。

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